リクルートキャリア、UTグループの事例にみる人材業界でのデジタルマーケティングの推進方法|セミナーレポート
UNCOVER TRUTHのソリューションと相性が良い企業/業種に共通する特徴として、「顧客獲得単価が高い」という要素が挙げられます。広告の費用対効果に頭打ち感を感じていればいるほど、広告に投資している予算の一部をCRO(コンバージョン率最適化)領域に投資することによって、多大なビジネスインパクトを生める可能性があるためです。実際に、数%のCVR改善が数千万〜数億円の売上アップにつながった事例もありました。
実はもう一つ、UNCOVER TRUTHのソリューションに効果を感じていただきやすい企業/業種の特徴があります。それは「商材で差別化を図りにくい」ということです。商材での差別化が難しい業界において、接点であるWebサイト上でユーザーに有益な情報をもれなく届け、継続的に心地良い体験を提供してエンゲージメント(顧客満足度)を高められるかどうかはビジネスが成長できるかどうかの鍵を握っていると言っても過言ではありません。今回のセミナーでは、その代表格である人材業界からリクルートキャリア社とUTグループ社をゲストスピーカーに迎え、顧客体験の最適化をエンゲージメントに繋げるデジタルマーケティングの考え方についてお伝えいたしました。
仮説なしにレポートを眺めていても、気づきは得られない
第一部は弊社CAO小川卓の講演です。これまでのセミナーでは「Webサイト改善PDCA」をテーマに語ることの多かった小川ですが、今回は「『仮説検証アプローチ』によるWebサイト改善案出しと、人材派遣サイト『ものコレ』の改善事例」、つまり仮説検証をすることの重要性を軸にお話ししました。
GoogleAnalyticsなどのアクセス解析ツールは年々進化し、今では上場企業の75%がこれらのアクセス解析ツールを導入していると言われています。しかしデータを詳細に取れるようになっても、そこから気づきを得て活用することができなければ意味がありません。多くの企業が陥っているこのような状況に対して小川は「レポートをただ眺めているだけでは、気づきは見つからないのは当たり前」と指摘します。
気づきを得るために必要なのが、今回のテーマである「仮説検証アプローチ」です。何を検証したいのかという仮説を出してから分析をすることによって気づきを得ることができる、言い換えると、気づきを得るために何を分析するのかをまず決めるという手法です。
しかし、その仮説を立てるために何から手をつければいいのか分からないという人も多いのではないでしょうか。そこでお勧めなのが、対象サイトを自身がユーザーとして実際に使い、気づいたことをひたすらメモしていくという非常に地道な作業です。例えば「私はこの時にこのリンクを押した。なぜならこういう気持ちだったから」というように、サイト内で最初に目に入ったものから遷移した時の心境まで、事細かに記録します。その一つ一つについて「他の多くのユーザーも同じことを感じているのではないか?」ということを出発点に仮説を立て、データに基づいた分析していくというのが仮説検証アプローチの始め方です。
実際に小川が手がけたWebサイト分析レポートの自動生成ツール「KOBIT」のサイトでは、次のようなメモが残りました。
- トップページを見てまずキャッチコピーが目に入るけれど、意味がよく分からない
- 分からないからお問い合わせしようかな?いや、まだ早い
- 「KOBITとは」のページを見よう
- 「KOBITとは」のページを見てみると、「すべての意思決定を最適化する」・・・なんかかっこいいけどよく分からない
- その下にある「KOBITとは」説明を読んでようやくどういうサービスかがわかる
で、どういうレポートを見られるんだろう?…etc
このメモから「KOBITとは」というコンテンツ、つまりサービスの全体像を分かりやすく説明するコンテンツを捜し求める人が多いのではないかという仮説を立て、「トップページを読んだ最初の10秒でサービス概要がわかるページに改善しよう」という目標へ向けて施策を重ねた結果、サンプルレポートのダウンロード数は2.5倍になりました。
活用のイメージまでを描いてから分析に着手する
また、仮説を元に分析を開始すると同じくらい大事なのが、「もしこういう結果だったらこういう施策をやろう」というように、その分析から得た気づきをどのように活用するのかということまでイメージするということです。例えば「トップページにコンテンツが多すぎてうまく誘導できていないのではないか?」という仮説から、トップページの滞在時間と遷移先、そして遷移先別のCVRを分析する場合、得られた結果は「トップページのレイアウトやコンテンツ量の見直しに役立てる」ということがイメージできます。
もちろんこのような気づきや仮説は、間違えていたり、当たり前のことに過ぎなかったりというケースもあります。しかし「やっぱりそうだよね」という気づきを数字で可視化することにも大いに意味があり、何よりも、数多く立てた仮説の中に必ず改善の突破口があるのです。
仮説検証に基づいたUTグループ「ものコレ」の改善事例
このような仮説検証に基づいた事例として、今回は製造・工場関係に特化したUTグループ社の求人サイト「ものコレ」の改善事例をご紹介しました。このプロジェクトのゴールは面談応募のCVR改善、分析対象は求人情報の一覧ページ及び詳細ページです。
仮説検証アプローチの最初のステップである「自分がWebサイトを使ってみて感じたことのメモ」からは、コンテンツが豊富であるというページの特徴が見えてきました。これらのコンテンツに触れるユーザーは、本当に面接に受かるのか?という不安を解消したい心理状態なのではないかという仮説を出発点に、接触した人のCVRが高いコンテンツを抽出。その結果「地元からどこかへ」「応募から就業までの流れ」というコンテンツに接触している人のCVRが高いことが明らかになりました。これらのコンテンツを仮説に基づいて「不安の解消を後押しする内容」に変更。さらにヒートマップの分析結果をもとに、より接触してもらいやすい掲載位置へと変えたところ、一覧ページ閲覧経由の応募完了率が3.2倍になりました。
定量的な基礎数値もきちんと確認することが大切
一方で、仮説を出発点にする定性的な手法には、押さえるべき分析のポイントに抜け漏れが出てしまいやすいという弱点があります。そこで小川からは、どのサイトにおいても見るべき基礎数値として以下の項目をご紹介しました。
【優先度:高】
- 直近数年間の日・週・月別トレンド
- チャネル・参照元/メディア別の基本指標
- デバイス別の基本指標
- ランディングページ
- 閲覧ページ
- 訪問回数の分布
- 各コンバージョンの達成数・CV率(eコマース含む)
【優先度:中】
- 年代×性別
- 地域別
- 流入キーワード
- 曜日×時間帯
このように、定性的な仮説を出してそれを定量情報に基づいてきちんと評価するという「定性+定量」の合わせ技はUNCOVER TRUTHの強みであると言えます。講演の最後に小川は「真の目標は数字を変えることではなく、改善によってビジネスゴールに貢献すること。数字は改善しても、ユーザーの『応募したい』という気持ちが高まった結果でなければ意味がない。だからこそ出発点となる定性的な仮説が重要になる」と、仮説検証アプローチの重要性を強調しました。
リクルートキャリア社のMarketo活用法
第二部ではエンゲージメントプラットフォーム「Marketo」を提供しているマルケト社から大里紀雄氏、そしてMarketoを活用しているリクルートキャリア社から藤井貴志氏が登壇し「リクルートエージェントにおけるMarketo施策の勝ちパターン」をテーマに講演しました。マルケト社の大里氏は、データドリブンマーケティングをテーマに「マーケティングを行うにあたっては、まずデータをしっかりと活用できる状態にすることが大事」と話をし、マーケティングに必要なデータを揃えるポイントとして以下の4ステップをあげました。
- 自社の顧客の理解
- 保有しているデータの整理
- 必要となるデータの用意
- データの整形・連携
顧客理解をした上で自社に必要なデータは何なのかを定義し、保有しているデータと突き合わせてそのギャップを埋めた上で、データを整形、連携していくことではじめて、データドリブンマーケティングを行う基盤を構築することができるのです。
ここで実際にMarketoを活用し成果をあげていらっしゃるリクルートキャリア社の藤井氏にバトンタッチし、リクルートキャリア社での実際のマルケト施策をご紹介していただきました。マーケティング業務に携わるようになってからわずか半年という短期間ながら、自社の状況を鑑みてデータをきちんと活用できる基盤作りからはじめ、Marketoのソリューションが「ハマる」施策と「ハマらない」施策を見極めその効果を最大化しているという藤井氏。特に成功した活用方法として、「エントリーから面談への引き上げメール施策」と「面談から求人応募への引き上げメール施策」の2つをお話いただきました。
まずは「エントリーから面談への引き上げ施策」ですが、リクルートキャリア社では面談呼び込みに特に力を入れており、メール、電話、SMSなどあらゆるチャネルで求職者にアプローチしています。そこでメール施策に関しては、接触数を増やすのではなくまずは基幹システムを使用していないライトな部分からメール文面の最適化に取り組みました。具体的にはメールを差出人、件名、本文といった要素に分解し、それぞれ仮説を立てて施策を実行し最適解を重ねていくことにより、最終的に配信クリック率が150%改善しました。またこれを一つのメール施策として完結するのではなく、この勝ちパターンを基幹システムから送信しているメールにも反映することにより、面談呼び込みまでのメール施策全体を最適化することに成功しました。
「面談から求人応募への引き上げメール施策」ではメールでの求人の情報の見せ方をMarketoのカスタムオブジェクトを使用し最適化した具体例をお話いただきました。
自社の文化に沿った「ブレない」マーケティングを
最後はパネルディスカッションの形式で大里氏、藤井氏、弊社小川に加えてUTグループ社の大森勇輝氏にもご登壇いただき、人材業界のデジタルマーケターが抱えがちな課題などについて幅広く議論しました。
まず潜在ユーザーへのアプローチについて質問が上がると、藤井氏は「どのようなきっかけであっても、初回のサイト訪問時に最も熱量が高いというのは共通しているはず。エントリーフォームの配置を工夫したり、ステップごとに離脱していってしまう人に対しても最初に登録したメールアドレスでリーチを続けたりと、細かい施策を意識している」、小川は「潜在度を測る手法としてオウンドメディアはおすすめ。見ているコンテンツから、ネガティブな理由での転職なのか、キャリアアップのためのポジティブな転職なのかモチベーションが分かる。それによって触れてもらうべきコンテンツの方向性も変わる」と、潜在ユーザーをクラスタごとに管理することの重要性について話しました。
一方顕在的な求職者へのアプローチについては、求職者の検討期間が短くスピーディな採用に強みを持つUTグループ社の大森氏は「9割は王道を行っても、1割はこれまでになかったような発想が必要」と強調。「スピード感を求めるUTグループでは、Webサイト上のプロセスをできるだけ簡略化して結果への最短ルートを作ることが、会社にとっても求職者にとってもいいことだと考えている。セオリー通りでないところもあるかもしれないが、オフラインも含めて余計なプロセスはいらないという文化が社内に徹底している。Webサイトでも、ユーザーが接触してきた際にいかに一発で態度変容を起こしてもらうのかを考えた施策を続けた結果、会社としての成長率は140パーセントになった。普通の施策で110, 120%の成長を目指していたら達成できなかった数字だと思う」と話し、企業の文化に沿ったブレない軸での施策が同社の成長を支えていることを明かしました。ナーチャリングに関しては藤井氏も「ナーチャリングの施策はしているが、ファネルにとらわれすぎないバランス感覚を意識している」と、セオリーにとらわれすぎない考え方に賛同。一人一人のユーザーがその時々でどんな情報を求めているか、ということにフォーカスした施策の重要性に話が及ぶと、小川は人材業界に特化した今回のセミナーを振り返り「転職は人生において大きな判断。応募数などの数字だけにとらわれずユーザー心理に寄り添って、テクノロジーの力でより良いマッチングが増えていくことが本来のゴール」と話し、講演を締めくくりました。
UNCOVER TRUTHでは、今後もこのようなセミナーを通して積極的に成功事例を発信し、Webビジネスの成長やそれに向けた組織上の課題を抱えている企業・ご担当者様を支援してまいります。