CDP導入の失敗を減らす。プロジェクトを成功に導く3つの要件定義
この記事では、CDP導入プロジェクトを成功に導くために必要な3つの要件定義について書いています。
当社では大手企業を中心にCDP導入のプロジェクトに多く携わらせていただいてます。
今回は、様々なプロジェクトの経験から得たCDP導入プロジェクトにおいて重要なことをお伝えします。
目次
CDP導入には、ビジネス、マーケティング、システム。それぞれの要件定義が必要
CDP導入プロジェクトの推進方法はウォーターフォールですか?アジャイルですか?と聞かれることがよくあります。
その観点は大事ですが、それよりも先に立って大事なことは「要件定義である」ということを説明していきます。結論からお伝えすると、CDPを導入する際に必要な要件定義は3つあります。
ビジネス要件定義
まずは、ビジネスの目指す大きな方向を定義していきます。
- 企業戦略として顧客との関係性をどうしたいのか
- 企業の存在意義はなんであり、どれだけの規模の商材とサービスが世の中に浸透しているべきなのか
- 客数、単価、LTV軸での状態
- 同一マーケットの中でのポジショニングやブランド定義
マーケティング要件定義
企業戦略に基づいて、顧客の定義とコミュニケーションの作戦が必要になります。
- who/when/whatのように誰にいつ何を届けるのか
- 商売として、その商品やサービスをどのような形態でお知らせしてお届けして、何でマネタイズするのか
- コミュニケーションのチャネル戦略もファネルに応じて可変的になるのか重層化するのか
システム要件定義
ビジネス→マーケティングと橋渡しされた要件定義をもって初めて、それを実現するためのシステムの要件を定義できます。
顧客ターゲットに相応しいコミュニケーションチャネルや商品やサービスの流通形態が決まっていることで、システムに必要となる機能要件が定まります。客数などの規模によってシステムの処理スケールも決めることが可能になります。CDPであればマネタイズ顧客だけではなく、アノニマスの非購買客もコミュニケーション対象にするのであればシステムのキャパシティは格段に強化しなければなりません。
これも全てビジネスとマーケティングの要件により、初めてシステム要件が算出できる所以です。
どれかの要件定義が曖昧だと、プロジェクトの成功率が下がる
仮にシステム要件定義だけが決まっていて、ビジネスとマーケティング要件定義が曖昧な場合だと、システム構築の話を進めていく中で、
- 実際、どういうことに使うのか?
- なぜ、そういう使い方をする必要があるのか?
- そもそも、この環境は何のために作るのか?
マーケティング要件定義やビジネス要件定義の内容についての話に再度戻り改めて考える場面に多く出会うようになります。
システム構築が進んでいく中で、ふわっとしたビジネスやマーケティングの話をし始めるのは危険です。プロジェクトはすでに進んでいる状態で、雲行きが怪しいからと、プロジェクトに参加することになった新たな部門や人物の登場により、四方八方から様々意見や見解が、その方たちの視座視野から出てきます。そのため、プロジェクト自体がスタート地点に戻ったり、急な方向転換など高難度のかじ取りが求められるようになり、プロジェクトの成功率が大きく下がってしまいます。
CDPプロジェクト失敗談。システム要件だけが先に決まっていた場合
実際の失敗談をお伝えします。
当社は2018年にサイトのコンバージョン改善(俗にCROという)の事業形態から、CRMでLTVを高めるために「CDPを活用する」という事業に転換しました。データを取り扱ってユーザーの解像度を上げて態度変容や行動変容を促すことで価値を高めるという大きなテーマに変わりはないのですが、オフラインのデータも取り扱うことで、より高度に顧客解像度を高めるためにCDPの世界へ、そのデータをマーケティングに活用していく領域へチャレンジを始めました。
CDP構築運用のプロジェクトを実施していくうちに、あるプロジェクトに遭遇しました。
ビジネス的な要件とマーケティング的な要件が決まっていないが、しっかりとしたシステム要件(CDPやMAのスペック)だけががっちり決まっている「構築案件」です。大手企業のIT部門からのオーダーでした。
▼とある大手企業のCDP導入プロジェクト▼
- オーダー:IT部門からのCDP設計・構築のオーダー
- 決定事項:システム要件定義(CDP、MAなどのスペックなど)
- 未決定事項:ビジネス要件定義とマーケティング要件定義は決まっていない
システムが先行する案件は、SIerの世界だとよくあることなのかもしれません。この場合、具体的な業務要件が決まっていないが、きっとそれも出来て、これも出来る「なんでもできる箱をください」と言ってしまっている状態になります。
今件では、プロジェクトの途中にお金を払う部門側から「それでいくら稼げるの?」という話が出てきてプロジェクトが硬直しかけたので、ビジネス成果の収益シミュレーション(投資判断資料)を作成し、マーケティングの方針を一緒に作りました。当社としても大きなプロジェクトだったため、なんとか成功へと結び付けようと、持ち出しの業務も多く発生して大きな赤字が出ました。
そもそも、クライアント側の担当者も、 DXの名の下に、上層部からの強い意向でシステム要件だけを先に進めていた案件であり、それに見合う箱物を作ればいいと考えていたため、関係部門から四方八方から叩かれて疲弊されていました。
実は、この手の相談案件はそれ以来もずっと後を絶ちません。このような場合はすでに先が目に見えているため、事前に下記をご相談させていただくようにしています。
- 「ビジネス要件定義とマーケティング要件定義を固めてから改めてお願いします」
- 「もしくは、その前段の要件定義をコンサルしますので、費用をいただいて一緒に作らせてください」
CDP導入プロジェクトを成功へ導くのは「ビジネス要件→マーケティング要件→システム要件」
結果としてCDP導入プロジェクトにおいて、ビジネス、マーケティング、システムの要件定義はセットでもあり、厳密に順番があります。
つまりは、クリティカルパスになっています。ビジネス要件が決まらないとマーケティング要件が決まらず、マーケティング要件が決まらないとシステム要件が決まりません。これは切っても切れない連鎖であり、順番も変えられません。ここが重要であり、この記事の冒頭にお伝えしたウォーターフォールなのかアジャイルなのかはすべての要件定義がある上で、という主語がある場合に意味のある質問かと考えています。
正しく手順を踏まなければ確実に手痛い思いをする「3つの要件定義」が皆さまのお役に立てば幸いです。
最後に。CDPやマーケティング基盤は各部門一体のスクラムで実現されるもの
CDPなどのデータ基盤やCDPに必ず連携するであろうBI/MA/接客/広告などのマーケティング基盤は、ビジネス観点=企業経営、マーケティング観点=マーケ部門、システム観点=システム部門とベンダの一体となったスクラムでしか実現することができません。
私たちが、マーケティングDXのプロジェクトを経験していく中で、成功しやすいと感じるパターンがあります。
それは、DX推進部門のような、 権限と予算が割り当てられた社横断型の独立組織を持っている場合です。「誰が何をやるか」が分かりやすい状態を作る。これは、王道の成功要因なのではないかと思う今日この頃です。
とはいえ、リソースが足りない、予算が足りない、何よりも進める人がいないとご苦労されているケースもたくさん見てきています。このような場合は、当社のような経験のある外部パートナーも交えてどうやっていくべきか?を考えて行くのも、ふんわりとした現状を打開する一手になります。様々な状況やケースがありますが、皆さん一緒に頑張りましょう!
この記事を書いた人
- 小畑 陽一
- 株式会社UNCOVER TRUTH
取締役COO(Chief Operating Officer)
music.jpやルナルナを手がけるエムティーアイ社出身。ソリューション事業責任者として、大手企業向けモバイルサイト構築ソリューションで、国内ナンバーワンのASPサービスを展開。2014年、取締役として株式会社UNCOVER TRUTHの取締役COOとして経営に参加。経営・事業戦略とマーケティングを管掌。 ad:tech Tokyo / Kyushu、宣伝会議、MarkeZine、Web担当者フォーラムなど講演活動多数。
著書:『ユーザー起点マーケティング実践ガイド』(CDP専門書籍)
データ分析や基盤構築、プロダクトの活用などについて、貴社の状況と目的に合わせて幅広くご提案します。
カスタマーデータのマーケティング活用にお困りの際はぜひお声がけください。