CDP導入に失敗しないように。顧客への提供価値を先に定義する
この記事は、マーケティングDXをおこなう上で重要となるCDPデータ基盤導入プロジェクトの落とし穴について書いています。
CDPの書籍を発売してからというもの、おかげさまで多くの企業さまからご相談をいただくようになりました。本当にありがとうございます。そんな中で"CDPがあれば何かできるんじゃないか?"という、いわゆる魔法の杖として期待をいただくことが同時に増えました。
目的不在でまずはCDPを導入するんだという目的と手段が入れ替わってしまっているときは、キッパリお断りすることがあります。(もちろん、お仕事をご一緒させていただくのはありがたいのですが)
目次
事業のグランドデザインがないと適切なツール選定は難しい
CX戦略(事業)のグランドデザインがない。説明不要かと思いますが「まずは箱を作りましょう」というケースです。本来はデジタル活用してどんな価値をお客様にお届けしたいのか?を、まず最初に考える必要があります。
上図はシンプルなフローチャートです。当社の多くのクライアントが通る「マーケティングDXプロジェクト」のプロセスになります。最上位に企業ビジョンと書いていますが、実際のところは「売上やシェアの停滞」「顧客基盤の不活性化」等の経営課題が該当します。
図の上段を飛ばして、まず箱(CDP)を作りましょうとなっている場合は、ひとまずCDPを導入して現状を「なんとかしてみて」となっている実情が多くあります。
ここで大事なのは、どのような理由でマーケティングDXプロジェクトが発足したにせよ、下図の2番目『顧客への提供価値の定義』ができてないと、CDPもマーケティング基盤(ツール類)も、目的に応じて選定できないということです。それぞれのプロセスは数珠つなぎであり、クリティカルパスでもあります。
とはいえ、実現したい世界観=「DXビジョンやCX戦略」が決まっていないが、社内決定実行としてCDPは導入したいという相談案件があります。
当社としてはありがたいお話しではありますが、結果として当社、クライアント双方が後に困ることとなるため「まずは、1と2のプロセスから実行させてください」とお返しするようにしています。使われない上にランニングコストだけを発生させる箱となるのは避けるべきです。
実際は事業変革のグランドデザインに向けて、必要な環境やツールをそろえていきます。それによりキャパシティプランニングも異なり、必要な機能も異なります。グランドデザインが無いとなれば、そもそも適切な基盤ツールの選定はできません。
仮に、事業変革のビジョンがグローバル規模であれば、グローバル対応のツールを選び、CDPやMAに取り込める顧客データのレコード数上限などキャパシティの考慮も必要です。または、ごくわずかな顧客数を対象にロイヤルティプログラムに特化した精密なコミュニケーションが取りたかったら、やはり選ぶツールも異なります。
モノゴトの出発点はやはりCX戦略をカタチにした事業のグランドデザインからスタートします。事業のグランドデザインを実現していくための手段のひとつであるCDPなどのマーケティング基盤は、あくまで戦略によって変わるモノであるので、ここであらためて強調しておきたいと思います。
グランドデザイン作りにデータを利用するコツ
ここで紐解くのは事業戦略の作り方ではありません(我々は戦略ファームではないので)あくまでマーケティングのDXによる事業プラン(グランドデザイン)を描くときのデータ活用について触れておきます。
- マーケティングにおけるDXで考えるべきことのステップ
① 顧客体験を刷新したり拡張したりするサービスの設計
② 価値の変化による顧客の望ましい変化(新規、既存、LTVなど)
③ それらの結果得られる収益モデルとざっくり規模間(仮説含む)
各社で違いはありますが、まとめると上記のようなアプローチであることが多いです。この3段階の中で②と③は既存のデータを活用することをオススメします。(あくまで、マーケティングにデジタルを活用する「マーケティングDX」に絞った話として書いています)
マーケティングDXプロセス例
先ほどのマーケティングDXのプロセス図を改めてお見せしておきます。これを元に例を通して考えてみましょう。
- マーケティングにおけるDXで考えるべきことのステップ
① 顧客体験を刷新したり拡張したりするサービスの設計
② 価値の変化による顧客の望ましい変化(新規、既存、LTVなど)
③ それらの結果得られる収益モデルとざっくり規模間(仮説も含)
サービス設計で「会員アプリ」を提供するとします。
ECでもお店でも共通で利用できる会員証でポイントプログラムも搭載できます。閲覧履歴や購買履歴や会員属性に合わせたオススメコンテンツがウリだとします。
顧客の望ましい変化を定義します。
お店でアプリDLをオススメされDLしてみると、購入した商品の使い方やTIPS、ユーザーコミュニティまであったとします。嬉しくて投稿するとコミュニティでファン同士の情報交換が活性化され商品の利用も促され、商品の体験価値が高まります。またポイントも溜まり、リピート購入もECでサクサクできました。新商品のシークレットセールなども考えられるかもしれませんね。このようなサービス強化により、顧客ロイヤルティの向上を図りリピート客が増えたり、顧客のLTVが向上できる望ましい変化を得られるとしましょう。
↑の変化により得られる収益シミュレーションをします。
新規顧客のF1(1回目購入)からF2転換(2回目購入=リピート)を生み出したり、定期購入など長期間利用する顧客の創出(LTV向上)を成し遂げたとして、各段階をステップアップしていく顧客が②の施策によりどれだけ増加して、結果的に売上がどのくらい伸びるのか、収益インパクトの想定シミュレーションを出します。
上記のように収益改善の想定ができてくると、どのような方向性で進んでいくのか?が明確になります。いよいよ必要な環境や施策などもイメージしやすくなりますね。では、上記のような場合、どのようなデータの活用ができるのか?を次から見ていきましょう。
根拠や仮説を作るためのデータ活用の具体例
前述のマーケティングにおけるDXで考えるべきステップの②と③で具体的にどのようなデータ活用ができるか見ていきましょう。データを根拠にすることで、モノクロ写真のようなDXの企画が、とても色鮮やかで鮮明な目標へと変貌します。
上記は9セグマップに実数が入ったサンプルデータです。
各クラスタ(ユーザー分類別の象限)に「売上・顧客単価・人数」が入ります。(事業によって計測対象の指標は変わり思ます)
対象を決める
各クラスタのユーザーボリュームに注目してみましょう。F2の積極行動有りのクラスタにはかなりの人数がいます。施策を実施するときは「施策対象の量と変化の容易さ」で優先度を判断します。積極行動がある上部のユーザー層は一般的にメルマガの開封率が高かったり、サイトやアプリへの来訪頻度が高い(積極的)ため、実施施策への反応が得られやすく、売上へのインパクトを出しやすい傾向があります。つまり、対象ユーザーのボリュームと行動変容の容易さを兼ね備えているクラスタは「F2・積極」となります。
目標設定
対象者が決まったら、目標設定をします。下記はサンプルの為シンプルシートですが、シミュレーションシートを作成します。各クラスタに対して施策を実施して顧客を移動(リフトアップ)させると、どのくらい事業収益が変化するか把握できます。
「変数」と書かれた黄色い枠に、施策実施による想定インパクト(何%の顧客が次のクラスタへリフトするか)を書き込み、予算目標を立てるための参考に使うこともあります。このようにデータを活用することで以下のようなことができます。 さらには、データという根拠を用いて目標設定までできることもチームで実行するうえではプラスに働きます
- 顧客の可視化(クラスタリング含む)
- 施策ターゲットの選定と優先度決定
- 収益シミュレーション
ここまで申し上げた通り、CDPは魔法の杖ではありません。ですが、使い方によっては現実と未来を映し出す鏡として活用できます。
箱を作ることを目的とせず、CDPの活用方法をたくさん学び、自社にあったデータ環境を手に入れられるように。私たちとしては、そのお手伝いができるようにと考えております。
この記事を書いた人
- 小畑 陽一
- 株式会社UNCOVER TRUTH
取締役COO(Chief Operating Officer)
music.jpやルナルナを手がけるエムティーアイ社出身。ソリューション事業責任者として、大手企業向けモバイルサイト構築ソリューションで、国内ナンバーワンのASPサービスを展開。2014年、取締役として株式会社UNCOVER TRUTHの取締役COOとして経営に参加。経営・事業戦略とマーケティングを管掌。 ad:tech Tokyo / Kyushu、宣伝会議、MarkeZine、Web担当者フォーラムなど講演活動多数。
著書:『ユーザー起点マーケティング実践ガイド』(CDP専門書籍)
データ分析や基盤構築、プロダクトの活用などについて、貴社の状況と目的に合わせて幅広くご提案します。
カスタマーデータのマーケティング活用にお困りの際はぜひお声がけください。