マネックス証券社の事例で学ぶ、顧客視点で考えるデジタルマーケティングの推進方法|セミナーレポート
Webでの顧客体験向上と一口にいっても、その手法は「求めている情報へスムーズにたどり着くことができる心地よいUI/UX」であったり「適切なタイミングで適切な情報が提供される仕組み」であったりと様々です。UNCOVER TRUTHの場合は、ユーザー行動データに基づいたUI/UX改善を通してより良い顧客体験の提供を目指していますが、もう1つのアプローチで顧客体験の向上を支援しているのが、ウェブ接客プラットフォーム「KARTE」を提供しているプレイド社です。今回はこのプレイド社と共同で「顧客視点で考えるデジタルマーケティングの推進方法」についてお伝えしました。
ツール併用の相乗効果でPDCAを回す
第一部は弊社CAO小川卓の講演です。今回は「アクセス解析ツール」「ヒートマップツール」「ABテストツール」を組み合わせて使うことの相乗効果に関するお話から始めました。
アクセス解析ツールを使用する目的は、ページ遷移率が高い/低いなどの特徴的なデータから「良くも悪くもこのページは重要そうだ」というページを発見することです。しかしアクセス解析ツールでは、重要そうだという気づきを得ることはできても、例えば「押して欲しいボタンのところまでスクロールされてないのか?それともスクロールはしているのにボタンが押されていないのか?」といった違いまでは分かりません。当然この違いによって打つべき施策は変わってきます。そこで活躍するのが、スクロールやクリック、マウスオーバーといったユーザー行動データを可視化できるヒートマップツールです。これによってアクセス解析ツールから得た気づきの原因を明らかにすることがき、取るべき施策はレイアウトの変更なのか要素の追加なのかといった仮説を立てることができます。そして最後に、仮説に基づいて打った施策がうまく行くのか行かないのかを検証するのがABテストツールです。
ここまでの流れは理解していても「そもそもなぜPDCAを回す必要があるのだろうか?」ということをきちんと説明できる人は意外と少ないと小川は指摘します。過去のセミナーや寄稿記事でも繰り返しお伝えしているように、小川が考えるその理由とは「打率(成功確率)と打席数(実行施策数)を上げるため」。イチローが打ってもマリナーズは負けることもあるが、打席に立ってヒットを積み上げることなしにはチームの勝利はあり得ない…という話に例えてお伝えしました。
キーとなるページを見つけ、分析する
実際に小川が手がけたマネックス証券社(以下、マネックス社)の事例では、まず始めにゴールを決めました。どの山をどこまで登るのかという指標に当たるものですが、同社の場合は「新規口座開設を増やすこと」「既存顧客の稼働率を上げること」の2つを設定。この設定をしないまま走り始めると、Webサイト改善活動は残念ながら高い確率で失敗します。
さて冒頭でもご説明した通り、改善活動のはじめにはキーとなるページを見つける(決める)ことが必要です。ケースバイケースではありますが、基本的には「直しやすそう」「やりやすそう」という安直な理由で決めることはお勧めしません。キーとなるページの選定のポイントは以下の3つです。
1、ボリュームが多いページ:同じ施策をやるのであれば、インパクトの大きいページを見つけるという考え方です。
2、離脱率が高い遷移ポイントとなるページ:バケツの穴をふさぐために、穴となっているページを見つけます。
3、CV貢献率が高いページ:CVにつながっている=ユーザーの態度変容を生んでいるページを見つけます。
キーとなるページを見つけたら実際の分析に進みます。分析の過程で何かしらの比較をするときに大切なTipsとして小川は「似ているページ同士を見比べる」というものを紹介しました。例えばECサイトで商品詳細ページと商品一覧ページを見比べても、この2つではもともとCVへの近さが全く異なるため意味がありません。大切なのは、似たもの同士のページ間で優劣を見極めることです。こうした細かいコツを交えながら、改善につながる分析のために大切な3つのポイントをまとめました。
1、コンバージョンしやすいユーザー行動を言語化する:このページを見るとなぜCVが上がるのかという理由について、漠然と把握するのではなくユーザーに刺さっているのは「安心」なのか「納得」なのか、あるいは「同業他社との差」なのかという細かい違いを言語化することによって明確にします。
2、データにおけるギャップを見つける:サイト全体のCVRが1%だったとして、この数字そのものに大きな意味はありません。その数字は訪問回数によって変わるのか、それとも使用デバイスによって変わるのかというようなギャップを見つけることが重要です。
3、仮説を持って分析をする:これは「なんとなく…でデータを見ない」と言い換えることも可能です。小川のお勧めの方法として、データを見る前にユーザーとしてそのサイトを使い、気づいたことをひたすらメモすることによってざっくりした仮説を立てることから始めるというものがあります。
これら3つの中で小川が最も重視するのは3つ目の「仮説を持つ」ということ。せっかくヒートマップを使っても、仮説がなかったり、比較するという一手間がなかったりすれば「ここが赤くなっているな」という感想で終わってしまいます。マネックス社の事例でも「よく見られているここの位置には何のコンテンツがあるんだろう?」「このコンテンツが見られている理由は何だろう?」と、CVする人の行動に着目した細かい分析を積み重ねることによって、口座開設完了率105.1%改善という成果を出しました。
失敗から気づきを得るのも成功のうち
しかし当然のことながら一つ一つの改善施策は百発百中ではありません。思うように成果が出ないことがあっても、失敗から次につながる気づきを得るという姿勢が非常に重要です。数字が下がったときには「この仮説は間違っていたわけだから、そうじゃない仮説を立てれば成果が出る可能性が上がるんだ」と考え、改善活動の手を止めないこと=打席に立ち続けることが何よりも大切だと小川は強調します。マネックス社は細かい改善施策を絶えず繰り返すことによって、最終的に口座開設完了率を113.4%まで引き上げました。
仮説を検証するステップで大切なのは以下の3つです。
1、データから見えた仮説を検証する:先述のように、データから「変えるべきポイントはどこか」を明確にした上で検証を実行します。
2、なるべく大きく変える:変えるのであれば、ユーザーが変化に気づくくらい大胆に変えないと意味がありません。変え方が中途半端でユーザーに気づいてもらえないというのが、実はABテストで成果が出ない一番の理由です。
3、直接効果と間接効果で評価する:Webサイト改善の過程においては、クリック率(直接効果)が上がってもCVR(間接効果)は上がらないという状況もよく見られます。直接効果が間接効果にどのくらい寄与しているのかということを冷静に見極めることが重要です。
最後に小川は「改善施策を提案しても、実行してもらわないと意味がない。マネックスさんは協力的だったので効果も出やすかった。Webサイト改善を成功させるためには、常に仮説をもって何かを試すという状態が回っていることが重要」、またそのための工夫として「自分の責任範囲や新設ページで小さな改善を積み上げていくことから始めてみては」と話し、講演を締めくくりました。
KARTE=「今誰に何をすべきか」の司令塔となるプラットフォーム
第二部はウェブ接客プラットフォーム「KARTE」を提供しているプレイド社、Business Acceleratorの金田拓也氏による講演です。ウェブ接客という概念を市場に提案した同社ですが、最近ではウェブ接客の本来の意味を伝えるために、カスタマー・エクスペリエンス・マネジメントという概念も用いて、KARTEの説明をしています。その背景にあるのは「ウェブ接客は、サイト上でユーザーへのアクションをするという理解は広まってきましたが、我々が大事にしているのは、アクションの部分だけでなく、Webサイトに誰が来ているのかをリアルタイムに可視化し、今誰に何をすべきなのかというミッションの的確な司令塔となるべきである」という考え方です。
その説明の通り「KARTE」ではWebサイト内だけでなく、LINE、SNS、メールといった多様なチャネルを通してユーザーが欲しい情報を提供することができるほか、Googleアナリティクスやセールスフォースと相互にデータをつなぎ込むこともできます。例えばクレジットカード会社であれば、セールスフォースの中にあるユーザーごとの信用スコアデータをKARTEに連携させ、リボ払いが可能と思われるユーザーにのみ、リボ払いキャンペーンの情報を提示するといった施策を打つことができます。
金田氏は、そもそも顧客体験とは何なのかということに立ち戻り、「顧客体験」ではなく「個客体験」を考えるべきだと表現しました。「これまでWebの世界では全体視点が強く、誰が来ても理解できるということが重視されていた」と金田氏。マネックス社のような証券会社の場合、Webサイトに訪れたユーザーは商品情報を見たいだけなのか、それとも口座を作りたいのか。カード会社であれば、新規カードを作りにきたのか、あるいはすでにカードを持っており利用明細を確認したいだけなのか。リアル店頭では当たり前にできているこうした区別をWebでも実現するのが「KARTE」だと話します。
講演の最後に金田氏は、Webでのコミュニケーションのポイントとして以下の3つを挙げました。
1、シーンに合わせた話しかけ:先述のように、リアル店舗で当たり前にできていることをWebでもやろうという考え方です。
2、その時、その時に応じた機微を大切にする:場合によっては論理的な細かい施策にこだわらず、直感も含めていろんな接客方法を試してみるのが有効だと言います。
3、実施後の細かいチューニング:「施策を打った直後だからこそできる軌道修正がある」と金田氏。思いつきでもいいので、施策を実施した直後は素早いチューニングをしてみるべきだと話しました。
商品担当者の“パワー”に引っ張られないためには?
最後はマネックス社営業企画部の田中佑典氏も交えて、3社でのパネルディスカッションです。田中氏が「『特定商品を担当していない』という証券会社の中では特殊な立ち位置を利用して、初めて取引をする人の目線に立ってWebサイトを見ることができた」と担当者としての強みを話すと、小川は「反対に商品への思い入れが強い人には、分析結果に基づいたロジカルな説明をすることが大切。(その商品に関するコンテンツを置く場所について)トップページが最適とは限らないのではないか?という代替案を示すのであれば、その議論がちゃんとできるように情報を整理してあげるのは我々の役目」。田中氏も同様に「別の案とともに各担当者の要望をお断りすることで、軸をずらしてあげるということを意識している」と、各担当者のパワーによってWebサイトのコンテンツ配置が決まってしまう状況への解決策を示しました。またプレイド社の金田氏は、目標設定の方法に関する参加者からの質問に対し「本来どういうお客様が自分たちにとって理想なのだろうかという定性的なところから考え始めてもいい。その顧客にはどういうプロセスでどういうお客様になって欲しいのか?そのためにはどういうステップを踏んでもらえばいいのか?を一つ一つ掘り下げていくことが大切。2時間くらいディスカッションすれば、数字とにらめっこしているよりも意外といいアイデアが生まれる」とアドバイス。定性的な目標設定については、失敗した施策に関する質問が上がった際にも「深く考えすぎた接客ほどうまく行かなかった、という感覚知がある。目標がピンポイントすぎると見るべきセグメントの母数が減り、また失敗も目立つ。初期の取り組みとしては大きなところから始めるのがお勧め」と話しました。
その他にも「季節性のノイズをどのように排除しているか」「全く新しいサイトについてはどのタイミングでデータ分析を始めればいいか」「改善の成果が出る限界のポイントをどのように見極めればいいか」といった参加者からの質問に登壇社が具体例を挙げながら回答し、約45分間のパネルディスカッションを終えました。
UNCOVER TRUTHは今後もこのようなセミナーを通してプロフェッショナルの知見やノウハウを積極的に発信し、皆さまのWebサイト改善活動と、データドリブンなマーケティング活動を支援してまいります。
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